富士山頂(剣ヶ峰)の登頂を無事に果たし、ここからは下界へ戻るために歩みを進める。
下りは楽だが、足腰に負担がかかり地味に体力を消費する。また、滑落・転倒のリスクも登りより大きいため、先を急がず慎重に歩いていきたい。
大きな岩がゴロゴロしていて歩きずらい。剣ヶ峰の頂上から北へ少し下ったところに、富士山の西側斜面にある大きな谷「大沢崩れ」を上から見ることができるポイントを発見した。まるで川のようにはっきりとに崩れている様子が分かるダイナミックな風景。どこかで軽食タイムとしたいが、座れそうなところが無いので、引き続き前に進む。
富士山の火口一周(通称:お鉢巡り)は思っていたよりも距離が長くて、アップダウンも大きい。
「大沢崩れ」を見下ろすポイントを過ぎた後は、下り坂の後にまた急な登り坂になり、富士山の登頂を達成した後だけれども、まだまだ登山は続いている感じだ。
富士山頂(剣ヶ峰)からのんびりと下ること約30分。小高い丘の上に富士山のジオラマを発見したので、ここで小休止することに。
「昭和41年6-8月」と書いてあったから、50年以上も風雪に耐えながら、この過酷な富士山頂に建っているのだろうか。それにしては細かく出来ていて立派なものだった。
バックパックからパンパンになったカロリーメイトを取り出して食べて、再び歩きだす。
程なくして、富士登山4つのルートの中で最も登山者の多い「吉田ルート」の登山口との分岐地点に到着。登山者がほぼ皆無だった御殿場ルートに対して、吉田ルートではそれなりに登山者の姿が見られる。そこから少し歩くと、売店と休憩所があった。
こんな場所にも関わらず、自動販売機が設置されている。売っている飲料は普通だったが、値段は衝撃の缶コーヒー400円、お茶は500円だ。
まあ、RPGゲームだったらダンジョンの最深部と言った場所だし、五合目から重機で輸送してくることを考えると、この値段設定も仕方ないのかもしれない。
体を動かしていると、甘いものが飲みたくなってしまう。500円の高級飲料を片手に、剣ヶ峰の頂きを拝みながらしばし休憩することにした。
この場所から見る剣ヶ峰は気象観測施設と岩盤が一体化したように見えて、まるで天空の城のような風貌。
程なくして、御殿場ルート登山道との合流地点に到着。用も足したくなったので、利用料300円の「日本一標高の高い公衆トイレ」を利用した。意外にも中は綺麗で、水が流れないこと以外は普通の公衆トイレと変わりなかった。近くには「富士山頂郵便局」もあったが、2021年は休業中のようで、固い扉に閉ざされていた。
この時の時刻は午前11時。少し名残惜しい気持ちもあるが、帰りを考えるとそろそろ下山を開始したいところ。「浅間大社奥宮」でお守りと記念品を購入し、御殿場ルート登山道に戻る。
午前11時15分、いよいよ下山を開始する。同じ場所まで登ってきた時刻が午前8時過ぎだったので、山頂には約3時間ほどの滞在だった。
今回はスーパーカブ110との旅なので、行きも帰りも同じルートになってしまうが、もしバスで来ていたのなら、行きと帰りで別のルートを選択することもできる。違うルートであれば、また違う景色を見ることができるので、それも有りだろう。
清々しい青空と眼下に広がる樹海、振り返ると富士山頂。ほぼ岩盤しか見ていなかった登りに比べて、下りは視界が開けるのもあってか、あっという間に下山していく。八合目まで下ると、少しづつだが背の低い植物も増えていって、茶色一色だった風景を色づかせてくれる。
12時35分、宿泊していた山小屋「砂走館」まで戻って来た。今朝の登りは2時間半かけて山頂まで登ったが、下りは1時間20分。決して急いでいる訳ではないが、やはり下りは圧倒的にスピードが速いようで、半分ほどの時間で帰ってこれた。
のんびり30分ほど「砂走館」の前のベンチで休憩して、預かって貰っていた荷物を受け取って再出発。
13時20分、七号五寸の山小屋「わらじ館」前を通過。まるで海外の高原地帯をイメージしてしまうような見た目だが、しっかりと国旗がたっていて、ここが日本であることを教えてくれる。
13時30分、御殿場ルートの登山道と下山道の分岐点に到着。
下山道は通称「大砂走り」という砂場の道を一気に駆け降りるルートとなっているが、まだ標高の高い場所ではゴツゴツとした石が多くて歩きずらい。
標高2,500mよりも低くなったあたりから、辺り一面が徐々に砂地になってきた。しかもこのタイミングで霧が発生して景色も真っ白に。延々と先の見えない砂場を歩くといった状況になってしまった。
御殿場ルートなので当然他の登山者を見ることもなく、ただひたすらに一人でこの道を下る。忍耐力が必要だ。今、どのあたりを歩いているかは分からない。電波は繋がらないが、GPSは反応していて、スマートフォンで現在地を知ることはできた。
Googleマップ東側の県道152号終点がスーパーカブ110を停めている「御殿場口新五合目」だ。
地図で見るとまだまだかなりの距離があり、夕方までに戻れるかなぁ.. などと少し不安にもなったが、ここから先の下山道はほぼ直線になっている。この後はまるでマラソンランナーの如く、今までのペースと比較すると驚異的なスピードで下山することとなった。
時速何キロメートルで歩いているかは分からない。でも、強烈な下り坂で競歩に匹敵するくらいのスピードが出ているのは分かる。足元も砂なので、まるでスキー板を装着しながら雪上を歩いているような感覚だ。
とりあえず、勢い余って転倒しないようにだけ気を付けながら、相変わらずの霧の中を弾丸の如く進んで行く。
14時50分、思っていたよりもだいぶ早い時間だったが、登山出発前に杖をレンタルした「大石茶屋」が霧の中からその姿を現した。七合目付近では明るいうちに戻れるか懸念もしていたが、それから要した時間は約1時間半、意外とあっという間だった。
飲み物を買って大石茶屋で一休みしようかと思ったが、店員さんが忙しいのか不在だったので、レンタル杖の返却だけ行って、新五合目の駐車場で休憩することにしよう。ゴールまで、あと少し。
「大石茶屋」と「御殿場口新五合目」の距離は短いが、普段着の人も現れて急に人が増えてきた。私が一般の観光客?を追い越したところで、トレイルランの人に追い越された。最後の最後で接触しないように注意しながら、ペースを少し落として歩く。
15時10分、こうして無事に御殿場口新五合目に戻ってきた。自動販売機で麓よりも少し高い210円の飲料を買って、しばし休憩する。
しかしこの旅は自分の足とスーパーカブ110によって達成する旅なので、まだ家路がある。この時間帯であれば、問題なく今日中に自宅へ戻れそうだ。整理体操のつもりで軽くストレッチをして、スーパーカブ110を停めている第二駐車場へ向かう。
駐輪場は広いが、今日もバイクは自分だけのようだ。帰る支度をしている間に大型バイクが数台やって来たが、霧で富士山頂が見えないからか、直ぐに去っていった。
15時40分、スーパーカブ110のエンジンを始動する。ここから家まで、最後の旅路だ。
新五合目の辺りは霧に包まれていたが、三合目、二合目… と標高を下げていくにつれて天候も晴れてきた。気温も上昇するが、30℃を超えることは無くてバイクで走るには快適な気候の中、今朝に富士山の上から見た山中湖方面を目指す。
山中湖周辺で小休止。このタイミングで、富士山頂が再びその姿を現した。
ここから見る富士山頂は遠くて、遥か向こうに感じる。ほんの数時間前まで、自分があそこに立っていたことが信じられない気持ちになる。
この後は往路と同じく、国道413号線(道志みち)を走る。関東首都圏の主要なツーリングルートなので、平日でもかなりの数のバイクが走っていて、道中、何台ものバイクが颯爽と追い越していった。
18時30分、ひぐらしの鳴く夏の夕暮れ、私とスーパーカブ110は静かに自宅に戻った。
一旦自宅へ登山用品を片付け、その後は再びスーパーカブ110に乗って近所のスーパー銭湯へ行って旅の疲れと汗を流し、無事にこの旅は終了した。
富士登山を成し遂げたという、大きな達成感と安堵感に浸りながら…
北海道から沖縄までバイクで日本中を旅した私であるが、登山は余り経験が無かった。だからこそ、山の景色は新鮮で、1泊2日とは思えないような壮大な旅でした。
以下、この富士登山に掛かった時間、費用などのまとめです。
【2021年夏・富士登山の旅 まとめ】
・2021/8/3(火)
6:10 自宅出発 [晴れ 26℃]
8:50 御殿場自衛隊基地前
9:00 馬返し上(一合目)
9:30 御殿場口新五合目 到着
9:50 登頂開始 標高:1,450m [晴れ 28℃]
10:00 大石茶屋 標高:1,520m
11:05 次郎坊 標高:1,920m [晴れ 23℃]
13:00 昼食 ※パン、サラダ、バナナ
13:45 新六合目 半蔵坊(トイレのみ・閉館中) 標高:2,590m [晴れ 20℃]
15:15 六合目 [晴れ 標高:2,830m]
15:55 七合目 日の出館(休業中) [晴れ 標高:3,120m]
16:10 七号四寸 わらじ館
16:15 七号五寸 砂走館 ※宿泊地 標高:3,190m [晴れ 15℃]
17:30 夕食 ※カレーライス
20:30 消灯
・2021/8/4(水)
4:45 砂走館前にてご来光を見る
5:25 朝食 ※カレーライス
5:55 七号五寸 砂走館 出発 [晴れ 12℃]
6:35 七号九寸 赤岩八号館 標高:3,290m
6:55 八合目 見晴館(閉館中) 標高:3,400m
8:10 お鉢巡り登山道 到着 標高:3,700m
8:15 駒ケ岳 頂上 標高:3,718m
8:34~8:41 剣が峰 頂上 到着 標高:3,776m [晴れ 10℃]
9:50 吉田ルート終点 (久須志神社)
10:45 浅間大社奥宮 ※記念品購入
11:00 富士山頂公衆トイレ
11:15 下山開始 [晴れ 13℃]
12:20 七号九寸 赤岩八号館
12:45 七号五寸 砂走館
13:15 置いていた荷物の回収 再出発
13:30 七合目 登り・下り分岐点 [晴れ 20℃]
13:45 下り六合
14:15 次郎坊
14:55 大石茶屋 [曇り 24℃]
15:15 御殿場口新五合目 帰着
15:40 スーパーカブ110 出発・下山
18:30 自宅到着 [晴れ 27℃]
19:00 スーパー銭湯へ
20:30 帰宅
・費用
宿泊代:8,000円
スーパーカブ110ガソリン代:500円
飲食代:1,800円
富士山保全協力金:1,000円
杖レンタル代:500円
富士山頂トイレ利用料:300円
記念品:2,000円
おみくじ:100円
帰宅後のスーパー銭湯:800円
[合計:15,000円]
≪完≫